泉谷顕縦塾長の地頭力コラム
Japanese Math 「算数」で地頭を鍛える
2021/02/20 公開
2021/09/16 update
江戸時代の教育力
江戸時代の日本では数学が大流行し、庶民から武士まで数学を楽しんでいた。江戸時代の識字率は世界一だったと言われている。
庶民の初等教育機関である寺子屋は一村に1軒以上存在し、江戸時代には全国に8万軒以上存在したと言われている。武士のための藩校や私塾なども含めると、その数は驚異的である。
こうした「江戸の教育力」のおかげで、明治時代になると科学技術の近代化が急速に進み、すぐに西洋列強諸国に追いつき、昭和の高度経済成長期につながった。
その根底には、世界トップレベルの数学力があった。
「Singapore Math」
昨今では、教育熱の高いシンガポールが、国際学力調査で高い順位を維持している。
例えば、国際教育到達度評価学会 (IEA)が1995年より4年ごとに実施している国際数学・理科教育動向調育 (TIMSS:Trends in International Mathematics and Science Study)では、2011年,2015年,2019年の調査において、小学校第4学年、中学校第2学年とも、参加国中トップの成績となっているが、日本は第5位前後に低迷している。
もう一つの国際調査である経済開発協力機構 (OECD)の実施するPISA(Programme for International Student Assessment)の2018年調査でも、全参加国・地域内での日本の読解力の順位が15位、数学的リテラシーが6位、科学的リテラシーが5位と低迷している。
シンガポールの国別人口割合は、華人(中華系)が75.0%、マレー系が13.7%、インド系(印僑)が8.8%、その他が2.5%となっている。
面積は、約720平方キロメートル(東京23区と同程度)、人口は、564万人(うちシンガポール人・永住者は399万人)(2019年1月)と、日本以上に資源に頼ることのできない事情がある。
そのため、中継貿易と科学技術によって国の生計を立てる必要があり、英語教育と数学教育への関心は極めて高い。
こうした社会的背景を持つシンガポールは、「日本を見習い、日本を追い越せ」と数学力を高めてきた。
最近のニューヨークの私立小学校では、世界一のレベルを誇る「Singapore Math」の教科書が採用される傾向にある。
シンガポール数学の特徴は、小学校から中学校まで一貫した『バーモデル』で文章題を視覚的に理解させるところにある。
しかし、日本には、「数学」とは表記しないが、数学への導入段階として未知数「x、y、z」などを使わない、世界に例をみない『算数』が義務教育で導入されている。
『算数』には、鶴亀算や方陣算など特殊算と呼ばれる「和算」の流れを汲む文章題の解き方がある。
「和算」
「和算」の源流は、中国の古い数学書から始まる。
豊臣秀吉の晩年から徳川幕府初期の頃の日本では、南宋の『楊輝算法』、元の朱世傑の『算学啓蒙』、明の程大位の『算法統宗』など、中国の数学書が輸入されていたが、1622年にようやく日本ではじめての和算書として、著者名と刊行年が明記された毛利重能の『割算書』が刊行された。
1627年には、吉田光由の『塵劫記』が刊行された。
『塵劫記』は和算書であるが、『東海道中膝栗毛』や『好色一代男』などの娯楽作品よりもよく売れた。まさに一家に一冊。江戸時代の大ベストセラーであった。
『塵劫記』は、イラストや多色刷りなど、江戸時代の印刷・出版テクノロジーの粋を集めたもので、浮世絵のきっかけをつくったとも言われている。 1674年には、遂に、関孝和が『発微算法』を刊行し、日本独自の「和算」が開花する。
これは、中国数学の模倣や応用ではなく、日本独自の数学が始まったことを意味する。
こうして、1781年に藤田貞資の『精要算法』が刊行される頃には、「和算」は日本独自の進化を遂げていた。
1655年頃から日本独自の文化として「和算」のシンボルである「算額」の奉納が始まった。
鎖国下の平和な江戸時代には、武士から庶民まで、芸術や俳句を楽しむように,「算額」を楽しんでいた。
著書を著すことができない人々は、数学の研究成果を示した絵馬を神社や寺院に奉納した。
こうした「和算」のシンボルである貴重な「算額」が現在も日本全国に約1000面現存する。
◆プラチナム学習会 上本町教室の近くにある生玉神社内(天満宮)の算額◆
このように日本の数学の歴史は、1622年ごろから本格化し、まもなく400年を超える。
このような長い歴史をもつ日本の数学力をいまこそ見直すべきである。
塾長 泉谷顕縦
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