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上席顧問津田克彦先生のブログ

【津田克彦の「個人の意見です!」】第5回「ことばの力」

上席顧問 津田克彦

上席顧問 津田克彦

2023/06/10 公開

2023/08/22 update

 「『私、大人になってから、お父さんのあのことばを時々思い出すんだよね。(中略)見方を広く変えてみよう、肩の力を抜いて歩いてみようって思うの。』父は、ぼんやりとそんなこと言ったかなと思う」以前、読んだ本の中に、そういう親子の会話がありました。父親は印象に残っていなくても、子どもにとったら宝物のように思えることばがあります。実は私にも両親からもらったことばで、私の人生の背中を押してくれたことばがあります。

母からのことば

 母親は日ごろの生活習慣や学習について、細かく注意するのが常です。なので、インパクトの強いことばを子どもに残すのは難しいかもしれません。そんな中で、私が今でも心に残ることばがあります。私は4才の時に交通事故に遭いました。3回の手術、半年の入院、半年のリハビリで、左足の膝から下、全面に大きなケロイド状の傷が残ってしまいました。5才になった私はその傷が、非常に醜いものに感じ、傷が治ったにもかかわらず外で遊ぶのもためらっていました。幼稚園は入院とリハビリのため通園できず、小学校入学で、はじめて新しい友達との出会いを迎えました。退院後は、私は傷が見えない長ズボンを履いていましたが、小学校入学と同時に母親は半ズボンを履かせて通学させました。そのときの言葉は今でも心に残っています。それは「これから一生、その傷とつき合っていかなければならない。傷を隠して生活するのではなく、堂々とみんなに見てもらって生活していきなさい。」はじめのころは、友だちも興味本位で傷を見たり、触ったりしていました。はっきり、言葉に出して「きもちわるい」と言われたこともありました。しかし、私自身が傷を見られることを恥かしく思わないように努力していくと、友だちも私の特徴の一つとして傷を捉えるようになってきました。制服が長ズボンになる中学校以降も、陸上部、サッカー部に所属して、ショートパンツでの活動を続け、教師になってからも水泳指導などで、子ども達にも傷を見せる機会が多くありましたが、「この傷があるから早く走れるように、強くボールが蹴れるようになったのかもしれない」と傷を誇りにさえ思えるようになりました。母からの「その傷と一生つきあっていきなさい。」という言葉をかけてくれたことで克服できたように思います。

父からのことば

 私がまだ若手教員のころ、ある大臣のお子さんを担任することがありました。日曜参観日に、その大臣も来校され授業見学の後、教室の教壇の前にいた私の方に来られ、深々と頭を下げて「息子をよろしくお願いします。」と挨拶をされて帰られました。若い私は有頂天になり、自宅に帰ってすぐに、家族に「今日、大臣が私に頭をさげて挨拶された!」と話すと、父が「それは違う。お前に頭を下げたのではなく、学校に頭をさげたんだ。」と話しました。そして「早く、教師としての津田個人に頭をさげてもらえるようになりなさい。」と諭されました。父は寡黙な人で、子どものころから話をした記憶がほとんどありません。そんな父の言葉は心に大きく響きました。それ以来、自分の勘違いを恥、父の言葉の通り、尊敬されるような教師を目指しました。また、若手の教員には「保護者の皆さんや関係者の方々は学校という名前を背負う君たちに頭を下げてくださっている。そこのところを勘違いしないように。」と言い続けました。教師という職業は、大学を出た二十歳そこそこの年齢でも「先生」と呼ばれ、挨拶をしてくださったり、敬語でお話をしてくださる方がたくさんおられます。それで、ついつい自分は偉くなったと勘違いすることがあります。父からの戒めの言葉は私の生涯の教訓となりました。

 この父母から、もらった言葉は私の人生や仕事において大きな影響を与えました。おそらく天国の父母は「そんなことを言ったかな?」と笑っていることでしょう。話した親が覚えていないことばが、子どもにとって心に残る宝物のようなことばになるためには、2つの条件が必要です。一つはことばをかけるタイミングです。子どもが欠けてほしいと思うタイミング、子どもにかけてやらなければならないタイミング、そのタイミングを見分けるためには日ごろから、子どもの様子をよく見ておくことが大切です。二つ目は口先だけのことばではなく、自分自身の人生観や経験値に基づいたことばをかけることです。そのことばは、子どもの人生観や価値観、勇気や努力につながっていきます。

 一方、ことばのもつ力には負の方にも働くことも知っておいてください。親が発した不用意なことばが一生のトラウマになったという話を聞きます。直接子どもに言わなくても夫婦間の会話を耳にしてトラウマになってしまうこともあるのです。
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上席顧問 津田克彦

上席顧問 津田克彦

元私立小学校校長、元大阪府私立小学校連合会会長。 プラチナム学習会では保護者相談、進学指導、及び、「小学校受験対策集団コース」を担当。元私立小学校校長の長年の経験を活かした、噂に左右されない本質的な指導で万全の準備を進めます。特に小学校入学後に後伸びできる子ども達の指導に努めています。

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