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泉谷顕縦塾長の地頭力コラム

Japanese Math 「算数」で地頭を鍛える その6-②

塾長 泉谷顕縦

塾長 泉谷顕縦

2021/06/18 公開

2021/09/24 update

算数が好きか?

 国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)の『算数・数学の学習が好きな児童・生徒の割合』についての調査では、「算数がとても好き」と答えた小4児童の割合は、シンガポールが39%、日本は26%となっている。

 中2 では、「数学がとても好き」と答えた生徒の割合は、シンガポールが24%、日本が9%とその差は歴然である。文章問題を解くことに苦手意識をもつ児童が少なくなれば、「算数がとても好き」と答える児童も増えるのではないかと推測される。

 日本では、計算問題が得意な児童であっても、文章題は苦手であるという児童は多く、どのように指導するべきか、現場では試行錯誤が続いている。教員がどのような文章題指導を行っていくべきなのかを、具体的に提案していくことが求められている。

 これまで通り、多様な考え方を認め合いながら授業を進める、日本式問題解決学習の在り方も大事にしつつ、シンガポールのように児童にとって分かりやすいスタンダードな文章題の「解き方」を最低限習得させるような算数教育も検討していく余地があると考えられる。

 

 また、シンガポールのように、特定の解法を使って、反復練習を繰り返すことは、「勉強の仕方」を児童に自然と体得させる効果があると考えられる。

 つまり、学校での反復学習を通して、「繰り返して学習することで以前より理解が深まる」「難しそうな問題も、情報を整理して、基本的なステップを踏めば解くことができる」という感覚をつかみ、自己学習に取り組むことができるのではないか、ということである。

 

 シンガポールでは、教員が、ダンスのような手の動きをつけて、リズムにのって植物細胞に関する専門用語を繰り返し唱えて児童に暗記をさせている。手の動きも、専門用語の意味を連想させるような動きに工夫されている。児童は意欲的に取り組んでいる。

 「繰り返し声に出す」「身体を動かすという手法を使って、効率的に暗記をする方法を教師が意図的に示している。

 

 日本では、知識詰め込み型の教え方が批判され、思考力を育てる授業を推進するようになって久しい。

その風潮に縛られるあまり、「テストの点を取るための勉強」と解釈されがちな「暗記方法」や「学習方法」を教えることに、学校側が逃げ腰になっている。

確かに、本質を理解せずに知識や問題の解き方だけを丸暗記しても、応用力が利かない上すぐに忘れてしまうだろう。一方で本質を学習すれば、暗記すべきことを全て暗記できるかと言えばそうではない。

 暗記のためのテクニック自習を効果的に行うテクニックを教えることは、児童の学力を身に付ける上で、塾だけではなく、学校側の重要な役割であり、日本がシンガポールに学ぶべき点は多くある。

日本の算数教育の課題

 日本の算数教育の課題として、以下の二点が挙げられる。

 

① 同じ校内でも教員によって教え方が若干異なり、児童の混乱を招きやすいこと。

② 単元学習に終始してしまい、様々なタイプの問題を解く総合復習の時間が不足している。従ってそれぞれの問題にどのようなやり方を当てはめればよいのか判断する訓練が圧倒的に足りないこと。 

 

 ①について、日本では、文章問題を教える際に、二重数直線の作図の指導に力を入れている小学校もある。二重数直線の作図ができると、「割合」や「速さ」等、児童がつまずきやすい単元でも、容易に立式ができ、算数に苦手意識をもつ児童が減るからである。

しかし、一般的には、単元ごとにプレテストを行い、習熟度別クラスを編成するため、同一教員が同じ集団に指導を継続できないケースが多い。習熟度別指導が児童の学習意欲向上や学力向上に役立つ場合もあるが、同一教員が6 年間一貫指導する方が望ましいと考えられる。

 日本では、全国的に算数科の習熟度別少人数指導が行われているが、シンガポールに見習い、校内の教員が6 年間を見通して共に教材研究を行い、一貫性をもった指導をする方が、児童の学力の更なる向上が期待できるのではないだろうか?

 

 ②についても、シンガポールの算数は小5~小6年で小4年までの既習事項を総復習する「基礎」編のシラバスを習熟度の低い児童向けに用意していたり、単元に囚われずに同時並行で全く関係のない文章問題を解く時間を設けたり、問題に応じてこれまで培ってきたどの知識・技能を適用すればよいのかを選び取る訓練の時間が公教育の中に保証されている点が日本と大きく異なっている。

 日本の算数の授業では、様々なタイプの問題に集中的に取り組むのは基本的に年度末の学年のまとめの単元のみである。

 朝の時間や昼休み終了後等の隙間の時間を算数学習に充てている学校もあるが、たいていは単純な計算練習や、現在やっている単元の復習であることが多い。

 

 数多くの学校行事に追われる日本の公立小学校では、単元の内容を授業時数内で終わらせることでぎりぎりの状態であり、様々なタイプの問題に対応できる「適用力」を培う訓練を塾に丸投げしているのが実情である。

 中学受験をする児童は、長期講習等を使って早い時期から受験に必要な内容を網羅してしまう。そして、何度も復習を繰り返す内に、どんな問題でどの知識や技術を適用するべきかを学んでいく。

 しかし、そうした訓練を受けていない児童は単元のテストが終わったら学んだことを忘れてしまったり、様々なタイプの問題を混合したテストになると、どの問題でどんな解き方をすればよいか分からなくなってしまったりするのである。

 更に、教員によって教え方が異なるとなれば、学年を超えたこれまでの学びが系統性をもって整理されないのは当然である。

ノートの使い方

 シンガポールでは、ノートは使わずプリントに書き込んでいく形で授業が展開されていく。
日本の場合、課題となる問題文を写すところから始まることが多く、書くことが苦手な児童はそこで学習意欲が停滞してしまう。

 また、教員側も、視写することが苦手なLD の児童のためには事前にプリントを用意する等、対応を変えなくてはならず、手間がかかる。

 児童は問題文を書き写すことで問題内容を深く理解することができると共に、速く正確に文字を書く力を養える。また、ノートを工夫しながら自分でつくっていくことで情報処理能力を高められる。ノート指導を丁寧にすることの意義は十分にある。

だが、一方で、ノート作りにこだわりすぎるあまりに本質に迫ろうとする児童のやる気をそいでしまうケースもある。

シンガポールの指導の仕方は、それぞれの単元の学習内容に、よりフォーカスしている。

 

 また、シンガポールの児童は白紙のワークシートをどのように使うかを訓練されていることで、きちんと途中式を残して効率よく問題を解いていく技術を身に付けている。

 日本の児童は、普段からマス目や行のついたノートを使っているため、余白を上手く利用して分かりやすく筆算を書いていないことで計算ミスをしている児童がいる。

 日本では、児童の字が小さくならないようにワークシートに行を引いたり、筆算の欄をもうけたり、使いやすく配慮されたワークシートが多いが、年齢に応じて真っ白なワークシートをどのように使いこなすかを訓練することも、ノート指導と同時に必要である。

 

 シンガポールの小学校では、算数の副教材が充実している。ブロックや分数学習用のパズル等、学年に合わせた算数教材が、各教室に置かれ、政府から全国児童全員に無料で提供されている教材もある。

 視覚的な教材や具体物を使った操作は、児童の理解を深めるのに非常に有効ではあるが、日本の場合、財政が厳しい自治体では、購入することが難しく、地域によって学校が所有する教材の量や質には差がある。

 教材が平等に全校に配布され、教育環境において地域格差がないことはシンガポールの教育の良さの一つである。

 

 このように日本とシンガポールの小学校における算数教育を比較することで、今後の日本の算数教育を向上させる処方箋が明確となる。

 日本の良い所を伸ばし、悪い所を改善すれば、日本の算数教育の未来は明るい。

プラチナム学習会は、微力ながら算数を切り口とした児童の「地頭力」育成に貢献していきたいと考えている。

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塾長 泉谷顕縦

塾長 泉谷顕縦

プラチナム学習会塾長。 21世紀に生きる子どものための幼児教育教室。 大阪を拠点に東京や全国に展開しています。

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